腹黒王子に秘密を握られました
叫ぶ私の声が電話の向こうの母にも聞こえたのか、金子が苦笑いしながらこちらを見る。
「はい、ちょっと照れくさいのか、帰るのイヤだって駄々こねてます」
照れてねぇよ! なにいい方に解釈してんだよ!
ガルルルルルっと唸りながら金子のことを睨んでいると、突然スマホを渡された。
「お前と話したいって」
「え?」
きょとんとしながらスマホを耳に当てると、いつもより二オクターブは低い、ドスの効いた母の声。
『莉央。金子さんがこっちに挨拶に来てくれる言ぅとるんに、あんたが嫌がるたぁ、どがぁことじゃ。そがぁな不義理しよる娘におかんはご立腹よ』
「お、おう……」
この声、本気で怒っておられる。
元々広島出身のお母さんから、この広島訛りが出てくる時は、かなり危険な状況だ。
『再来週、約束通り金子さんを連れて実家に帰ってこのぉたら、われの部屋の例のブツは全て、容赦なく可燃物ゴミ行きじゃ思いんさい』
「くっ……、わかりましたお母さん」
『土産は東京ばななとねんりん家ね』
「ド定番だね」
『いつの時代も定番こそ王者じゃけぇね』
「わかる。やっぱりBLも王道の設定はいつの時代も廃れないよね」
『BLの話はしとらんわ』
「はい。すいません」
最後までぴしゃりと叱られて、しょんぼりしながら電話を切る。
すると金子は楽しげに肩を揺らしながら、煙草の箱から一本取り出し口に咥えていた。