腹黒王子に秘密を握られました
新幹線から在来線に乗り換えて、街から山へ。そうやってたどり着く小さな田舎の駅が、私の故郷だ。
近隣の町と合併したおかげで名前だけはかろうじて市だけれど、過疎化が進み、閑散としている。
私の通った母校も、他の地区と統合され、廃校になるらしいと聞いた。そんなさびれた駅に降り立ち、タクシーを拾おうと駅前通りに出る。
「ふーん。ここでお前が育ったんだな」
「高校はこの辺でしたけど、実家はもっと山の方ですよ。田舎者だって驚きました?」
「いや、別に? どんな高校時代だったのかなって想像してた」
「ご想像の通り、昔からオタクで変わり者で、気持ち悪がられてましたよ」
「そ? あの辺のファーストフードで彼氏とデートしたりしてたのかなとか、想像してたんだけど」
「まさか。デートどころか彼氏がいたことなんて、一度もありません」
「ふーん」
そう言いながら、金子は楽しげに辺りを眺める。
なんだか不思議だ。
自分の育った街に、この人がいるなんて。
今は同じ職場で、偶然自分の弱みを握られたのがきっかけで、一緒に実家に来ることになったけど、きっと学生時代に出会っていたら、金子は私なんかと視線すら合わせてくれなかったと思う。
クラスで人気者だっただろうイケメンと、オタクで変わり者の女。
まるで違う人種なのに、こうやって隣にいるのが不思議だ。
金子の気まぐれではじまった〝恋人のフリ〟がいつまで続くのかはわからないけど、それが終わればこうやって二人で出かけたりもしなくなるんだろうな。