腹黒王子に秘密を握られました
「こっちはもう、紅葉が綺麗だなー」
つかまえたタクシーの後部座席で、金子は楽しそうに景色を眺める。
「金子さん……」
「ん?」
どうして恋人のフリなのに、わざわざ私の実家まで来るんですか? そう彼に聞きたかったけど、どんな返事を期待してるのか自分でも分からなくて、言葉に詰まった。
黙り込んだ私を見て、金子は優しく微笑んで、そっとこちらに手を伸ばす。
長い指がするりと私の頬をなでて、眼鏡のフレームに微かに触れた。
「今日は眼鏡なんだな」
「あ、映画見やすいようにと思って。あとは実家に帰るだけだし」
「俺とデートだからオシャレしようって思考はゼロか」
「え? いや、そういうわけじゃ……。ん? ってか、デート!?」
「いや、冗談」
「……ですよね」
デートという自分には無縁すぎる単語に、思わず驚いて慌ててしまった。
情けない。
いちいち金子の言葉に動揺するなんて。もっと修業を積んで、動じない心を手に入れなければ。
なんて思いながら、タクシーの窓をぼんやりとながめる。
ガラスに映る私の姿は、眼鏡をかけた冴えない女。
着心地重視の柔らかいパーカーに、色気の無いショートパンツ。五本指の靴下にスニーカー。
寝癖隠しのニット帽に黒縁眼鏡。