腹黒王子に秘密を握られました
会社での愛想笑いという鎧を脱いだ私は、無愛想でつまらない、取り柄の無い女だ。
こんな女が隣にいたら、金子さん恥ずかしいかな。
せめて、もうちょっと、ちゃんとした格好をすればよかった。
休日だっていうのに、ジャケットに白い綿のシャツ、ツイードのナロータイをつけて、ちゃんと小奇麗な格好の金子を見て猛省する。
「なに?」
あんまり私が見るからか、金子が視線に気付いて微かに首を傾げた。
「私もうちょっとマシな服着てくればよかったと思って。すいません」
「いや、お前がそんな感じの恰好でよかった」
「そうですか?」
「ちゃんとスーツを着ようか迷ったんだけど、このくらいカジュアルじゃないとお前とバランスとれないから丁度よかったなと思った」
「え、カジュアルですか? 十分きちっとしてますよ?」
これでカジュアルだっていうなら、普段どれだけお洒落さんなんだよこいつは!
「彼女の実家に挨拶に行くんだから、ちゃんとした格好しないとダメだろ」
「ファァーーーーーーッ!!」
「お前、その突然奇声上げるのやめろよ」
突然叫んでごめんなさい、タクシーの運転手さん。
私が驚かせたせいで、一瞬ハンドル操作を誤って、田んぼのあぜ道につっこみそうになった。