腹黒王子に秘密を握られました
言いたいことはわかってるんだろう? というような意地悪な微笑み。
「金子さん、じゃなくて……、あ、あああああ、敦さんんんんんnnnnっ!!」
恋人なのに苗字で呼んでいるのは変だと両親に散々からかわれ、今から敦さんと呼びなさいと勝手に決められたけれど、三次元の生身の男の人を下の名前で呼ぶなんて難易度の高いことさらりと出来るわけがない。
自分が発した敦さんという響きのあまりの恥ずかしさに、私は床に倒れ込んで顔を覆ってのた打ち回る。
「はは、少しは慣れろよ」
「無理ッ、ほんと無理ぃ!」
とんだ羞恥プレイだ。屈辱だ。
なんて床につっぷして唸っていると、お父さんが金子のお猪口に日本酒を注ぐのが見えた。
「あ、ありがとうございます」
慌てて金子がお猪口を両手で持ってお酌を受ける。それを見て、いつも仏頂面のお父さんが珍しく嬉しそうに口元を緩めた。
「金子くんが、日本酒いける口でよかったよ」
「見たことない銘柄ですけど、地酒ですか? すごく美味しいです」
「小さな酒蔵だけどな、蕎麦と合うから好きなんだ」
アルコールは甘くないと飲めない私にはさっぱりわからない世界だ。