腹黒王子に秘密を握られました
 
金子をもてなすために母が用意してくれた料理は、蕎麦だった。

地元で取れた蕎麦粉を使った新蕎麦と、舞茸や鱧や秋ナス、銀杏の天ぷら。
こんがりとあぶられた鴨に、酒の肴にとならべられた刺身や胡麻豆腐。

なんて田舎臭い地味な食卓だとちょっと恥ずかしくなったけど、どれも美味しいと喜んで箸を進める金子は、この空間にすっかりなじんでいてなぜだか少し嬉しくなる。

南に面した縁側と居間の仕切りを開け放ち、すっかり紅く色付いた里山を眺めながら、古い木でできた大きな座卓をみんなで囲む。

なんてのんびりとした時間だろう。

「もしよかったら、お蕎麦のおかわりどう?」

「ありがとうございます、いただきます」

「あ、私もほしい」

「この蕎麦うまいか?」

「うん」

「すごく美味しいです」

お父さんの問いかけに私と金子が頷くと、満足げに口元を緩める。

「このお蕎麦、お父さんが打ったのよ」

「え? 本当ですか?」

お父さん、いつの間にそんな趣味を。
前は台所になんて近寄りもしない典型的亭主関白ジジィだったのに。


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