腹黒王子に秘密を握られました
「公民館で蕎麦打ち体験があって、フラッと行ったらハマっちゃったのよ。莉央の好きなことに熱中しすぎる性格は、お父さんゆずりね」
「お父さんは変な人形に頬ずりしたり話しかけたりしないぞ」
「いやいや。そういうことじゃなくて!」
っていうか、私と似てることがなんでそんなに不服そうなんだよ、おい。
「あ、お父さんも、どうぞ」
テーブルの上のお猪口が空になっているのを見つけて、金子が徳利を持ち上げる。
「あぁ、ありがとう。金子くん、気が利くね」
「日々営業で鍛えられてますから」
「その割に、同じ部署にいる莉央は、なんでまったく気が利かないのかしら」
「お母さん、さりげなく娘を蔑むのやめてくれる?」
また口げんかをはじめる私たちを見て、金子が優しく笑った。
「莉央さんはお酌したりお世辞を言って上司の機嫌をとったりはしませんが、他の人が面倒がってやりたがらない仕事も率先してやってくれるし、人の目がないところでも決してずるをしたり手を抜いたりしないし、営業部の全員、彼女を信頼していますよ」
穏やかな口調でそう言われ、なんだかむずがゆくて下を向く。
こんなの営業トークだってわかってるけど、それでも恥ずかしい。
ちらりと金子の方を見ると、静かに微笑みかけられて、慌ててまた下を向く。
その様子を目敏く見つけたお母さんに、指を指されて笑われた。
「莉央、顔が真っ赤ですけど?」
「だからぁ! 言われなくても自覚してるから、そこはそっとしておいてぇっ!」
……なんてデリカシーの無い母親だ。