今のままで
プロポーズされたの?
ふぁーああくびが止まらない。
昨夜郁斗があんな事するから全然眠れなかった…

「もうどういうつもりよ?」

仕込みを済まし朝食にクロワッサンのサンドウィッチを作るとちょうど郁斗が顔を出した。

「お、おはよう…」

「おはようパン焼けたんだな?」

「うん…サンドウィッチで良い?」

いつもと変わらない郁斗を見てると昨日の事は夢だったのかと思う。

「うん、それと生クリームたっぷりのコーヒーな」

「はいはい」

コーヒーを淹れていると

「美寿々、昨日レストランで二人で居るところ写真取られたらしい」

「えっ?どうしよう?ごめん…」

「なんで美寿々が謝るの?」

「だって…」

「今日発売の週刊紙に出るらしい。ここにもテレビカメラや記者が来るとお客さんに迷惑かけるから先に記者会見する事にしたから8時の生放送で流れるから見ろよ」

「う、うん…」

郁斗は食事を済ませると「じゃ行ってくる」と店を出て行った。

「…あっ郁斗」

私は慌てて郁人を追って店を出る。

「郁斗いってらっしゃい」と声をかける。

郁斗は笑って「いってきます」と言って山下さんの迎えの車に乗って行った。
お店に戻って食事を済ませようとしても喉を通りそうもない…

「郁斗、大丈夫かな?」

あー落ち着かないよ…
もうすぐ8時お店にはテレビは置いてない。

「咲ちゃん悪いんだけど少し休憩取らせて」

「良いですけど?具合でも悪いんですか?」

「ううん違う。とにかくごめん宜しくね?」と慌てて部屋に戻りテレビをつける。

『おはようございます。今日は朝からビッグニュースが飛び込んで来ました。なんとあの郁斗が女性と居るところを写真に取られたそうで、今からご本人が記者会見するそうです。』

あっ郁人だ…

『本日は急な事にかかわらずお集まり頂きありがとうございます。本日発売の週刊紙に女性とのツウショットが記載されると聞き急遽会見を開かせて頂きました。相手の方は一般の方ですので取材はご遠慮下さい。僕の方でお応えしますので』

『お付き合いをされてるのは間違いないですか?』

『はい!間違いないです。付き合ってます』

『お付き合いはいつ頃からですか?』

『いつ頃かな?…幼なじみなので付き合いは長いですけど…やっと昨日俺の物って言いました。』

『えっ?それはプロポーズしたと言う事ですか?』

『はい』

『では結婚間近と言う事ですか?』

『そうですね?出来るだけ早くしたいです』

「……だ、誰の事?…私?プロポーズされたの?」

何が何だか分からない…
どれだけの時間ここに居たのだろう?
電話が鳴る。

「もしもし美寿々さん?お店大変なんですけど…」

慌てている咲ちゃんの声で我に返り

「あっごめんすぐ行くから」

「いえ来ない方が良いと思います。美寿々さんに取材したいってテレビカメラまで来てますよ?美寿々さん何したんですか?」

お店にはテレビがないから咲ちゃんはまだ知らないんだ。

「…ごめん…後で話すね?お昼になったらお店閉めてくれる?悪いけどお願い…」

「わかりました」

「ごめん」

電話を切る。

「郁斗…どうして…」

ピンポーンとチャイムが鳴る。
インターホンの画面には優里さんが映っていた。

「優里さん?」

ドアを開けると優里さんが立っていた。

「美寿々ちゃん大変事になってるね?しかし早かったね報道陣が来るの?」と微笑む。

「どうぞ入って下さい」

優里さんはテレビを見て心配して来てくれたそうだ。

「優里さん…どうなってるのか分からないんですけど?郁斗が何を考えてるのか…」

「どういう事?」

優里さん首を傾げる。

「記者会見で婚約者だなんて言って…私は…」

その後が悲しくて言えなくなり俯く。

「美寿々ちゃん?郁斗の事嫌い?」

「好きです!」

顔をあげ思わず大きな声で言っていた。

「ウフフそれなら婚約者でいいんじゃない?」

「だって郁斗は…小野寺コーポレションを継ぐ事になるかもしれない人…継がなくても海外からも指名される程有名なモデルで俳優としても活躍始めたのに私なんかが…郁斗にはもっとふさわしい人が居るはずだから…」

「美寿々ちゃん?私なんかって言っちゃダメよ!貴方は素晴らしい人じゃないお店に来てくれるお客さんがインタビューであなたの事とても褒めていたわよ?『頑張り屋さんで人の心の分かる優しい人ですよ』って、『いつも朝いってらしゃらいって言って貰えると疲れていても元気が出る』って『今日も頑張ろうって思う』って言ってたわ美寿々ちゃんのコーヒーはとても美味しいけどそれだけじゃないのよあなたの人柄でみんな来てくださってるの」

「でも…住む世界が違い過ぎます」と手を握りしめて俯く。

「多恵おばさん美寿々ちゃんに感謝してたわよ。郁斗、多恵おばさんが呼んでも顔を出さないけど、美寿々ちゃんのジャムを届けるときだけ顔を見せてくれるって喜んでたわジャムも美味しいって」

郁斗のお母さんがジャムを気に入ってくれたと聞いて作った時は必ず郁斗に届けてもらってる。

「『食事をしに帰ってこない?』って言っても『美寿々の飯食べるから要らない』って言うらしいの多恵おばさん嫉妬しちゃうって笑ってたわ」

そんな…

「郁斗には美寿々ちゃんが必要なのよ?」

「本当に私が側に居ていいんですか?」

「もしもし郁斗?美寿々ちゃんが聞いてるわよ?」

えっ?
優里さんはスマホを通話状態にしていたようで相手は郁斗?
うそ?
優里さんからスマホを受け取る。

「いく…と?」

「美寿々昨日言っと事本心だから美寿々を愛してる。側に居てほしい美寿々じゃないとダメなんだ。本当は今すぐ会いに行きたいけど仕事で今から大阪なんだ明日の夜帰るから飯作っといて」

側に居てほしいと言われ嬉しくなる。

「うん作っとく気をつけてね?」電話を切る。

「優里さん心配かけてすいません。先の事はまだ分からないけど郁斗の側に居ます」

「良かったあっ忘れるところだったはいこれ!私がプロデュースした圧力鍋使って誕生日プレゼントよ」

「有難うございます。これでまたレパートリーひろがります」

「ねぇ一つ聞きたいんだけどクロワッサンの作り方教えてくれない?」

「えっ?クロワッサンは優里さんに教えてもらったんですけど?」

「だって郁斗が美寿々ちゃんの作るほうが旨いって言うんだもん…何か違うのかな?って」

「食べます?」

「食べたい」と優里さんが言うのでコーヒーを淹れてクロワッサンを出す。

優里さんは一口食べると「ドリール?」

「郁斗匂いに敏感だからドリールに使う卵を変えてます」

クロワッサンを焼くときに艶出しに卵を塗る。
ほとんどの人は匂いは気にならないだろうが郁斗は匂いに敏感だから餌にこだわった卵を近所の方に分けてもらっている。
郁斗が私のオムレツを美味しいと言ってくれるのはこの卵を使っているからかもしれない。
ニワトリのエサには、魚粉や廃油なんかも使われている事もある。
魚粉は魚の頭や内臓も使われているので、生臭さが卵に移るようだ。
廃油はてんぷら油の廃油で、空気に触れているうちに酸化し、やはりその匂いが卵に移りる。

「そうなんだ愛情かぁ?」と優里さんは笑う。
< 5 / 18 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop