恋の魔法と甘い罠Ⅱ
「何でもないよ」


「嘘だね」


「嘘じゃない。本当に何でもないよ」



そう言いながら微笑むと、晴希さんはあたしの瞳をじっと見据えたあと、小さく息を吐いた。



「じゃあ、何で泣いたんだよ」


「え」


「何もないのに泣くなんておかしいだろ」



確かに。


けれどもうこのことは口にしたくない。



「忘れちゃったー」



笑いながらおどけるようにそう言って、両手で掬ったお湯を晴希さんの顔を目掛けてパシャっとかけた。



「ぶはっ! 何すんだよ!」


「ははは!」



一瞬咳き込んだ晴希さんの表情がなんだか凄くかわいくて思わず笑ってしまったあたしに、晴希さんはじろりと視線を向けてくる。
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