Engage Blues
「さぁ、どうぞ」
柔らかな口調で虎賀さんに、座るよう求められた。
しかし、素直に従うことができない。
彼女に通された部屋は、広い道場だった。
板張りの床からはひんやりとした冷気が漂ってくる。
想像とは違いすぎる展開に多少、面食らいつつも訊ねる。
「梨花は?」
「今、こちらに向かっていますわ。大丈夫です。きっと大慌てで駆けつけますから」
再び不自然に広い空間にある座布団を促される。
仕方がないので座ると、その仕草に虎賀さんが目を瞠る。
「あら」
特に意識したわけではないが、やはり気付かれたか。
隠すつもりはないので自分から告白する。
「しつけに厳しい家でした。高校生にもなって一から叩き込まれると、なかなか癖は消えないものでしょう」
「え……高校?」
予想通りの反応というか、虎賀さんの目が瞬いた。
無理もない。彼女も梨花同様、こんなことは『遠い出来事』だろう。
それでも、俺は向かい合う彼女をまっすぐに見つめる。
「俺は非嫡出子です。高校入学直前に母が亡くなり、偶然それを知った父が家に招いてくれました」