Engage Blues
彼女は梨花の身内だ。
理由はどうであれ、隠し事をするべきではない。
「……梨花が何かを恐れていることは知っています。でも、それを理由に俺も無理強いをしなかった。結婚したいと嘯いて、彼女に否と言われるのが怖くて問題を先延ばしにしてきました。最低ですね」
俺は、卑怯な人間だ。
梨花が迷っていることを理由に、自分を偽っている。
秘密なんて大したことないと言いながら、俺は彼女に隠し事をしている。
『それ』自体を梨花に知られることは構わない。
ただ、彼女が結婚を躊躇う理由にされることだけが怖い。
知られることによって、自分を見つめる瞳の熱が冷めてしまったら。
来るかもしれない悲しい結末に目を伏せる。
決して訪れることのないよう努力しなければ。
その一心で、彼女に頭を下げる。
「どうか信じてください。俺は梨花が好きです。彼女のいない未来なんて考えられない」
もう手遅れだった。
彼女と別れる日なんて考えたくもない。
初めて会った瞬間から、心に住みついた特別な存在。
笑顔が可愛いらしいと思った。