Engage Blues





 いつも元気で、よく食べる。
 決して要領はよくないが、何においても一所懸命で、努力家だ。


 隣で眠る彼女の顔を見る度、安堵にも似た気持ちになる。

 それが、二度と手に入るはずないと思った『帰る場所』だと気付いたのは、いつ頃だろうか。


 母を亡くしてから、俺の中から大事なものが失われた気がした。

 月日の流れに何かを感じることなく、様々な人々とすれ違うだけ。



 それが目の前に梨花が現れた瞬間、周囲の景色が徐々に変化していった。


 一緒にいたいと思った。
 これから先の人生、梨花とならうまくやれる気がする。

 自分ひとりと彼女を支えていくくらいの余裕はある。梨花が望むなら、新しい家族が増やしても構わない。

 ずっと変わらずに生きていけたら。

 そんな都合のいい夢ばかり見てしまう。


 彼女を失ったら、再び世界の全てが色褪せることだろう。



 それだけ、梨花の存在は大きいことは自覚している。
 ただし、彼女の伴侶としては自分が不適格であることを認めざるを得ない。



 俺が恐れていることは、梨花を奪われること。

 彼女自身が、俺との未来を望まないことだ。






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