Engage Blues





 その可能性を含む秘密を爆弾として抱えている。



 今となっては、虎賀さんとの出会いが予兆のように感じられた。

 梨花に全てを打ち明けて許しを請う時が迫ってきている、と。



 そう悟った瞬間、彼女の顔は悲しげに歪められた。


「……そこまで、あの娘が好きですか」

「はい」


 即答できてしまえるほど。


 中途半端な好意で彼女を繋ぎ止めていると思われたくない。


 梨花は、実家に帰りたがらない。俺のように、家族との確執があるわけではなさそうだ。


 となれば、他に考えられる理由はひとつ。
 俺自身を家族に知られたくないのだろう。


 虎賀さんは、初めて会う梨花の身内だ。
 多少の下心も手伝い、彼女の心証をよくしたい部分がある。



 虎賀さんも気付いていると思う。
 しばらく面を伏せていた彼女が、居住まいを正す。

 改まった口調で来るべき時が来たと覚悟した。


「若林さん。安心なさって。今の状況を作った最大限の原因は、あなたではありません。むしろ、最低だと責められるべきは梨花の方です」



 挑戦的な視線に、最後の言葉は不可解だった。



「え……?」







< 111 / 141 >

この作品をシェア

pagetop