Engage Blues

自分の手で白黒つけて終わるしかないと思ってました。











 思い出すのは、慶さんと出会った時。



 大学時代、初めてできた恋人に浮かれてた。
 デート資金を貯めるため、バイト先が彼の働く喫茶店だった。


 厨房に案内され、突然現れた長身に驚いて、たじろいだ。
 無表情で短い挨拶ですませる慶さんは、正直ちょっと怖かった。


 それでも、働く内にとても穏やかな人だとわかった。
 とんでもないヘマをやらかしても、一緒に頭を下げてくれた。


 あっと言う間に初彼にフラれ、すごく落ち込んでいたのが痛々しかったのかもしれない。
 試作品といって、甘いケーキをこっそり渡してくれた。


 嘘つくの、慣れてなかったのがバレバレですよ。
 後で店長さんに確認したら、新メニューの相談なんかしてないとぶっちゃけられて。




 失恋の痛手は、一所懸命、早く治さなければと一念発起。


 わたしと別れた後、可愛い後輩を侍らす元彼など即忘れて、慶さんへのアプローチを敢行した。
 今思えば、あんまり実ってなかったけど。



 初めてデートに誘った時も、慶さんに告白した時も、彼の返答はどっちも同じ。


 数秒間の沈黙の後、「わかった」ってひと言だけ。





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