Engage Blues
これこそ、案ずるより産むが易しってことでしょうか?
「俺は本家の子供じゃない」
ぽつりと呟かれた言葉は、あっさりし過ぎて他人事のよう。
「父親は認知するつもりだったが、俺が断った」
手を繋いで歩く帰り道。
慶さんは、ぽつぽつと自分の過去を話してくれた。
「別に、反発とかじゃない。もうこれ以上、俺という存在であの家を煩わせたくないんだ」
物心ついた時から慶さんの中には『父親』という存在はなかった。
最初からお母様とふたりきりの生活だったらしく、少なくとも彼はこれから同じような日々がずっと続くと思ってた。
それが突然、終わりを告げる。
慶さんが志望校の合格通知をもらった日に、唯一の肉親がこの世を去ってしまう。
お母様は多くを語らず、慶さんも深く詮索しなかった。
もともと丈夫ではない身体で自分を育ててくれていたことを知り、激しい後悔に襲われる。
けれど、いつまでも悲しみに浸っている暇もない。
他に頼る親戚を知らない慶さんは進学を諦めて、担任と就職先を探していた時にお父様が現れたという。
それからは、鬼洞家の屋敷で武術を習いながら、高校、専門学校に通う。
忙しい毎日と慣れない生活。