Engage Blues





 窮屈な思いや嫌なこともあったけれど、希望通りの進路を叶えてくれたことは事実だ。


「弟たちは俺を兄と呼んでくれるが、血筋や体面はあるだろう。多くの門下生の前で、義母をないがしろにすることは避けたい。あの人は見捨てても構わない愛人の子供を引き取り、人並みの生活をさせてくれて、教育を受けさせてくれた。
 俺は、受けた恩も返せない人間だ。だから、せめて生涯あの家には関わらないつもりでいる」




「…………」


 実のところ、鬼洞家の人たちは専門学校を卒業した慶さんを追い出したわけではない。
 むしろ、お父様はそのまま本家の跡取りとして迎えるつもりだったようだ。
 四人いる弟さんたちも、何人かは不器用ながら歩み寄る努力をしてくれたらしい。


 ただ、当然のことながら折り合いの悪い相手はいる。
 義理の母と次男だけは、話が噛み合わなかった。


 それが口実というわけではないが、慶さんはかなり無理を言って本家から勘当同然に縁を切ったらしい。

 自分の存在に、自分で泥をかけた。
 でも、慶さんはそうすることでしか、義母と次男を守る方法を知らなかった。





< 123 / 141 >

この作品をシェア

pagetop