Engage Blues
「梨花自身も結婚が嫌なのかと思った」
「えッ」
「遠回しに結婚の話をすると、いつも決まって曖昧にはぐらかすから。縛られるのが嫌とか、子供はいらないとか、何か理由があるんだろうと」
「い、いえ、そんなことはないです……」
何故か、しどろもどろに否定してしまう。
そんなに否定的なエネルギーを放出してましたか?
だとすると、慶さんの方も気が気でなかったんじゃ……
反対されるのも承知でプロポーズしたのに、肝心のわたしがのらりくらりしてたら、たまったもんじゃないよね。
サッと血の気が引く。
急に立ち止まって、慶さんの手を強く握った。
彼も不思議そうに、こっちを向き直る。
「……慶さんにプロポーズされた時、とても嬉しかった。だって、わたしも同じこと考えてたから」
言葉を紡ぐ度、心臓が激しく脈打つ。
今にも口から飛び出しそう。
「だから、苦しかったんです。あんな家、慶さんが知ったら幻滅しちゃうんじゃないかって」
好きだからこそ、言えなかった。
時代錯誤のような家のしきたりと掟。
慶さんの夢も犠牲にしかねない。