Engage Blues





 事実を告げられない心苦しさはある。嘘をついた罪悪感だってある。


 でも、それ以上に彼が不安になるようなことは避けたい。
 心配だけはさせたくないのである。

 こうしてエレベーターの前で鉢合わせたのも、いてもたってもいられなくて近場を探すためだったと思う。


 逆に、わたしの取り柄は身体の頑丈さだけ。
 両手の拳を握り、元気な姿をアピールしようと思った時、


「怪我はしてないみたいだな」

「は、はい……」


 ホッと小さく息が洩れた。
 安堵の溜め息だったみたい。

 付き合いはじめてすでに八年も経過してるけど、いまだに慶さんの考えてることはよくわからない。

 無表情にも近い、わずかな変化を読み取ることは至難の技だ。


 その証拠に、



「ふぐぅッ!」


 いきなり顔面に固いものが押しつけられた。
 ついでに視界と気道を塞がれ、胸から背中にも激しい圧迫感に襲われる。

 あっさり落ちかけて、背中を叩いて抗議する瞬間だった。



「よかった。なかなか帰ってこないから」


 何重にも震える声音で、ようやく慶さんに抱き寄せられたことを知る。

 そんで、やっぱり心配させたっぽい。





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