Engage Blues
待ち合わせの前に、確認しておきたいことがあります。
「ごめんなさい。わたし、他に結婚を考えてるひとがいるんです」
さらりと出た言葉で、わたしのこめかみにビシリッと青筋が浮かんだ。
「へー、あんた二股かけてたの。コウ」
「違いますよ。僕は、麗子さんひと筋です。今のは梨花の率直な気持ちを代弁してあげただけです」
トゲトゲだらけの嫌味にも、まるで堪えてない。
こういうヤツだってわかってるけど。
横目で睨んでも、ちっとも気付いた様子はない。
「勝手にありもしない事実を代弁しないでくれる?」
「やだなぁ。人間は時には残酷な真実よりも、優しい嘘の方が後々いい思い出になりますから」
「ねぇ、コウ。あんたのその見映えがよすぎる面の皮、歪めたくないわよね。ないわよね? だったら、腹で考えてることを控え目に表現しなさい。その方が、世界のためだと思うの」
ばきぼきと指の関節を鳴らしてわかりやすい脅しをかけるものの、コウは盛大にはにかむだけだ。
「いやぁ、そんな。見映えのいい面の皮なんて……当然それほどでもありますけど」
「うん。あんた、面倒くさい。どっかに消えて」