Engage Blues
こいつとしゃべると疲れる。
互いに街灯を背にして会話する相手は、加瀬 航(かせ わたる)。
ひとつ下の幼馴染みだ。コウって名前が何よりの証拠って感じ。
幼い頃につけたあだ名をいまだに呼んでしまう。
眉間に皺を寄せながら、背後を観察した。
照れる彼の顔はアイドル系で、爽やかで柔らかな物腰は、老若男女ところ構わず人目を奪ってる。
けど、こいつの中身は途方もないギャップが詰まってたりする。
「それで、いつ別れ話を切り出すんです? そろそろ言わないとやばいですよ」
「どうして別れ話のカミングアウトが前提なのよ」
じろりと横目で睨んでも、整った顔が崩れることはない。
「だって、梨花が凰上流闘術の次期師範とは告白できないんでしょ。だったら、『結婚は無理です。別の相手を探してください』って言うしかないじゃないですか」
「それが嫌だから困ってるんじゃない」
コウは、わたしが抱える事情の全てを知っている。
てか、彼も同じ世界の住人なのだ。
だからこそ、ヤツの言葉は誰よりもわたしの胸に鋭く突き刺さってくる。