Engage Blues
用件が終わったなら消えろと告げる。
勢いよく振り返れば、コウはさっさと人混みの中に消えていった。
さすがは元·忍者の一族。姿を消すテクニックは今も継承されているらしい。
幼馴染みの隠れた才能に関心していると、
「梨花」
反対側から慶さんが声をかけてくる。
コウってば、だから素直に帰ったんだな。
本当にに絶妙なタイミングで退散するんだから。
「待たせたか?」
「いいえ。時間ぴったりです」
にこやかに告げると、慶さんは人混みに目を向ける。
「今の……加瀬か?」
「え、ええ。偶然、仕事の帰りだったらしくて」
まずい。
慶さんもコウとは面識がある。
別に見られたってどうってことないけど、会話の内容を聞かれるとボロが出てしまう可能性がなきにしもあらず。
コウがいれば、その辺はうまくごまかしてくれるけど。
今の状況じゃ、わたしひとりで処理するしかない。
「たまたま会ったんですよ。最近は女性の上司にこき使われて忙しいみたいで」