Engage Blues
……だったよな。確か。
戦国時代には一、二を競うほどの間諜(スパイ)の家系だったのに、それを現代で活用する気はないようだ。
普通に進学、就職を経て一般企業で細々と働いている。
周囲には持ち前のルックスでちやほやされているが、直属の女上司には嫌われたらしい。ここぞとばかりにしごかれて大変だと以前にぼやいていた。
そんな説明を端的にしても、慶さんの反応は薄い。
「ふーん」
視線さえも向けずに相槌を打つ。
別にコウが嫌いとかじゃなくて、これが慶さんの普通の態度なんだと思う。
たまたまふたりで会話した時が顕著だった。
爽やかな笑顔で一方的に喋りまくるコウと、無表情のまま適当に頷く慶さんは、端から見るとかなり険悪な雰囲気に見えた。
けれど、後から互いの印象を訊く分には、すこぶる良好だった。特に慶さんは「裏表のない男だな」とコウを絶賛していた。
それからは男性同士の関係には立ち入らないようにしている。
通常は見えないコウの一面を知られたかは定かじゃないけど、あまり触れてほしくない。
自分の保身からぶっちゃけそうな本音を呑み込んだ瞬間、ぐいと腕を引かれた。