Engage Blues
そもそも、コウの上司は女傑と呼ぶに相応しいキャリアウーマンらしい。
いまだに男尊女卑が根強く定着する日本企業で辛酸を舐めて戦ってきたのだろう。
だから、コウみたいな面がいい男は大嫌い。
顔のいい野郎は、口説いてくるか、仕事の実績を妬むか。
散々、そんな同僚を見てきたらしく、コウの新人教育は半端じゃなかった。周囲が「そ、そこまでしなくても……」と青ざめるほど、こき使ってイジメ抜いた。
だけど、ヤツは忍者の家系である。
持ち前の高い情報収集能力、要領のよさ、愛想のよさで、失敗や経験不足をカバーしてみせた。
それがますます女上司の不況を買ったらしい。
入社して早五年。いまだにいびられる毎日を送っている。
なので、大変。
そう。大変。
忘れていそうだから、もう一度言う。
そうだ。コウはマゾなのだ。
上司の彼女に怒られ、いびられてる毎日が幸せなのだ。
だから、大変。
最近、イジメてる本人もようやくコウの嗜好に気付いたらしく、彼を遠ざけようと必死だ。
人事部はもちろん、あの手この手で追い払おうとする。ただし、その戦況はいまいち芳しくない。