Engage Blues





 その間にも、コウは部下だから一緒に仕事をしなくちゃいけない。
 当然、失敗したら怒らなくちゃいけない。


 すごく気持ち悪いよね。彼女としては。
 嫌いなタイプの男を罵っても、相手を喜ばせるだけ。

 無視なんて無理。嫌いだから。
 蜘蛛とか、昆虫とか。苦手なものほど意識しちゃうでしょ。距離を置いても視線は逸らせない。

 どうすりゃいいのって感じ。


 会ったこともない人なのに軽く同情する。

 ごめんなさい。
 コウって、いつの間にかにそんな仕様に出来上がってたんです。


 まだ見ぬ彼の上司に心の中で謝っていると、電話を終えたコウが振り返ってきた。


「すみません。今日は、ちょっと」

「え~? 急な仕事?」

「本当にすみません。麗子さんが呼んでるんです」


 本当かいな。
 無理矢理に押しかけるんと違うのか。

 いや、待てよ。
 電話の内容は、企画書を置いた場所の確認だった。

 もしかして、この口実を作るために資料をわかりにくいところに置いたんじゃなかろうな?


 つい、あらぬ疑いをかけた眼差しで見つめるも、コウは悪びれもせずに笑ってみせた。





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