Engage Blues





「もー、いいじゃん。そんだけ勝ってんだからさー」


 頭をかきながら呆れるしかない。
 女の子が武術で競って何になるのさ?


 美由紀は、学生の頃から成績優秀でスポーツ万能、品行方正。文武両道を絵に描いたような才媛ぶり。

 おまけに家は金持ちで、美由紀自身も一流企業の秘書に収まってるはずだ。
 そんだけ揃ってりゃ、誰も文句言わないだろうに。

 十人並みのわたしと比べるまでもない。
 正直に告白すると、学生の頃は何でも美由紀と比較された。家は近いし、同じ武闘家同士。同い年だったことも災いした。

 情けない話、上京しての大学受験は美由紀から逃げるためでもあった。
 あのままでは、彼女の才能を妬んで潰れていたと思う。

 家とか武術とか美由紀とか。そんなしがらみから解放されなければ、今頃のわたしはコンプレックスの塊だったろう。


 でも、それ以上に美由紀はプライドの塊だった。
 クラゲみたいなわたしの態度が気に入らないのか、彼女は細い眉をつり上げる。


「見くびらないでよッ! この私があんたにひとつだって負けるはずがないでしょうッ!!」

「あー、うん。そうだね。勝てないや」





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