Engage Blues
「初めまして。若林 慶一といいます」
「こ、こちらこそ、初めまして! 虎賀 美由紀ですッ」
どもった美由紀が、速攻で肘鉄をかましてきた。
「ちょっと、梨花ッ!」
「げふッ!」
慶さんの位置からじゃ、バッチリ死角。
思いきり脇腹を抉られてたので激しく咳き込む。
「まさか、あのイケメンパティシエがあんたの恋人とか言うつもりないわよねッ!?」
「言う。嘘じゃないもん」
痛む脇腹をさすりながら口を尖らせる。
美由紀のような反応は、何度も遭遇してるだけに複雑だ。個人的には。
慶さんを誉められてること自体は嬉しい。
でも、同時にわたしとは不釣り合いだって言われてる気がする。
長身で美形で温和で優しい人柄の慶さんなら、絶世の美女と付き合っていてもおかしくない。
それだけの魅力がある。
片や、わたしの顔立ちは平凡で十人並み。
長所は身体の丈夫さくらい。格闘技なんか、履歴書に書く気にもなれない。
実際、慶さんと歩けば恋人と認識される方が稀だ。
彼の知り合いに会えば大抵、妹と勘違いされる。