Engage Blues
たまたま今年の夏に電話で話す機会があったけど、わたしに結婚の意思があるかを訊ねてきた。
正直に、好きな人がいるから家は継がないと答えると、それからぷっつりと連絡が途絶えてしまう。
奥義書を渡すまいとしたのか、長兄の逆鱗に触れたのかは、わからない。
ただ確実に言えることは、わたしが凰上家で自由に行使できる権限はないってことだ。
「そういうわけだからさ。虎賀家が最強ってことで。次期師範候補って言っても凰上家を背負って戦う器じゃないのよ、わたし」
正式な家同士の対決となると、凰上家の上役たちも黙っていないだろう。
師範である母はともかく、師範代の門下生や引退した祖父母は、わたしが凰上家の代表として難色を示すに違いない。
門下生を教え導く師範の娘として不適格な、自分勝手な振る舞いをしてきた自負はある。
掟に従って勝負をしたとしても、美由紀の望むような結果にはならない。
彼女が勝ったとしても、凰上家の上役たちが聞き入れるかは怪しいところだ。
勝負やわたしの立場に難癖をつけて、奥義書の譲渡を拒む可能性が高い。
そう告げると双子の表情は曇った。
「姐さん……」
虎次郎の呟きが、冷たい空気に溶けていく。