Engage Blues
「うふふふ。そんなこと言っていいのかしら」
挑戦的な発言のあとに、少しの間。
《……梨花?》
ビシリッとこめかみに、怒りがわいた。
スマートフォンから聞こえる声は、慶さんだった。
《場所はわかってるわね。待ってるわ》
次には美由紀の声で、用件のみを告げてくる。
わたしが何も言えない内に、通話は切れた。
しばらく、スマートフォンを握りしめたまま、その場を立ち尽くす。
たった数分だけのやりとりで、いくつかのメッセージが隠されてる。
少なくとも美由紀は、家で食事の支度をしているはずの慶さんと一緒にいる。
わたしの行動パターンどころか、住んでいる場所を特定して乗り込んできた。
同時に、彼を誘い出して人質にされた。
慶さんに危害を加えるというより、わたしを確実に引きずり込みたいんだろう。
でも、思い込みは禁物だ。慶さんが絶対に安全だという保証もない。
すかさず、スマートフォンの画面をタップして電話をかけ直した。
相手は美由紀じゃない。
コール三回目で繋がった。相手の声を聞くより先に走り出す。