私は、アナタ…になりたいです…。
「みっともないとこ見せたね…」
田所さんはそう言って顔を上げた。
鼻の頭を赤くしている彼の顔は、瞼がまだ少し赤かった。
ううん…と頭を横に振った。
声に出すと、また泣いてしまいそうな雰囲気があった。
「僕は酔うといつもこんなふうに醜態を晒してしまうんだ……女将さんからも、何度注意されたか分からないくらいにね…」
離れながら手にしていたペットボトルを地面に置いた。
大きく息を吐きながら、なんとか自分を立て直そうとしている姿がいじらしかった。
明るく爽やかな田所さんしか知らなかった。
こんなコンプレックスを抱えて生きてるなんて、思いもしなかった。
代われるものなら私になりたいなんて、そんなふうに思い詰めることもあるんだな…と知った。
「田所さん…」
薄手のコートに触れて名前を呼んだ。
酔った勢いで私のことを名前で呼んでいた人の顔が、ゆっくりと振り返った。
いつも以上に間近にある彼の身体に頭を凭れた。
今してやれる事はこんな事しかない。
自分は彼のお母さんにはなれない。
彼を好きでいるのは同じかもしれないけど、それほど深くはない筈だから……。
「みっともなくないですよ……ちっとも……」
かける言葉も見つからなかった。
「泣かないで」も「元気出して」も、言ってはいけない気がした。
「今みたいな田所さん……私は好きです……」