私は、アナタ…になりたいです…。
「旨いよ。君も食べる?」


反対側を向けてやると、オドオドしながら小さな口を開けた。


ドキッ…としてしまう。
この間のことが急に思い出されて、慌てて平静を装った。


「…本当、美味しい!」


目を丸くしながら目元だけが笑う。

可愛いな…と思う反面、深くのめり込まないように…と心を引き締める。

母と彼女を重ねたくないーーー そんな思いでいっぱいだった…。


河佐咲知は自分用に買っていた小さなピザを食べながら「私のこと、避けてるんですか?」と聞いてきた。
ギクリとするのを隠して、「何故?」と聞き返した。



「…田所さんが、挨拶をしてくれないから…」


かき消える様な声で非難された。後ろめたい気持ちを隠しながら、口からでまかせを吐いた。


「気のせいだよ。単に急いでただけ」


大きな商談が待っているからだと説明した。
業務については何も知り得るはずの無い彼女が、「そうなんですか…」と納得した。


「お忙しいのに、こんな場所にお呼び出ししてすみません。もしかしたら私が何か怒らせているのかもしれないと思ったら、居ても立ってもいられなくて…」


思いつきで呼び出したことを謝罪する。
彼女のことを見ない様にしていた自分としては、返って申し訳ないような気がした。


「呼んでもらって良かったよ。苦手な課長から昼飯に誘われそうだったから」


悩みを吹き飛ばすように明るく喋った。
無理して笑う自分に目を向け、彼女が口元だけに笑みを作った。


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