私は、アナタ…になりたいです…。
食事をしながらこの2日ばかりのことを話し合った。仕事で午前様だった…と話すと、大変ですね…と心配された。


「朝とか急に冷え込むから、風邪引かないようにしないと…」


自分のピザを食べ終えて、ステンレスボトルに入ったお茶を差し出した。


「ハーブティーなんです。結構体があったまりますよ」


小さな笑みを浮かべる。
さっきとは違う本物の笑顔を見れて、ほっ…と気持ちが癒やされていくのが分かった。


「好きだ…」と口にしそうになって、慌ててお茶を飲み込んだ。
程よい温度のハーブティーは、口腔内を温めながら喉の奥へと流れ込んでいった。


「美味しいね」と呟くと、嬉しそうな顔を見せる。
そんな顔をされるのが一番堪える。
抱き締めたくなって、キスしたくなって堪らない。


容易に手を出したくないのに、不用意に手を出しそうになる。


空を仰ぎ見ることで何とかごまかした。

一緒に居る時間が長ければ長いだけ、苦痛に似た感覚を覚えた。




「先に戻るよ。これからまた外回りだから」


ステンレスボトルのフタを返して立ち上がった。
憂かない表情を見せる河佐咲知に、「また一緒に食事に行こう」と約束してから立ち去った。


居た堪れない気持ちのままでいるせいか、いつもより話が弾まなかった。
無理して笑おうとするからなのか、彼女の様子も何処となくおかしかった。


(バレてないよな…)と願う気持ちを持った。

その思いが彼女に伝わっているとは、思いもせずにいた……。



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