私は、アナタ…になりたいです…。
「この人はね、私の救世主なの。やけ鉢で死のうとしてた私をありったけの力で引き止めて、『バカ野郎!』って、大声で怒鳴りつけてくれた。『あんたに何が分かるのよ!』って、反対に言い負かしてやろうかと思ったけど、暴れる私を抱いてくれる胸が余りにあったか過ぎて…何も言えなくなってしまった……」


きゅっと酒を引っ掛けて、女将さんの猪口は空になった。その底を眺めながら、女将さんは右えくぼを作って言った。


「この人に、自分が侵されてる病の話をしたの。神妙な顔つきで真面目に話を聞いた後、この人何て言ったと思う?」



『……いいじゃねーか、子宮なんか無くたって、お前は女だろ⁉︎ …愛嬌のある顔してるし、結婚だってきっとできるよ。何ならオレが貰ってやる。オレはガキなんか嫌いだし、女さえ側にいりゃいーんだから』



「支離滅裂だ…って、いい加減なこと言うな…って、散々怒鳴ってやった。だけど、この人は、『本気だ!』って言って一歩も引かない。そのうち親やら病院関係者が探しに来て、私はまた牢獄のような病室へ連れてかれることになった。母親は、『代われるものなら代わってやりたい!』って、私の足元に泣き崩れるし、父親は父親で、『命あっての物種だ』とか古臭い言葉を言うし、私の気持ちなんか誰も分かろうとしてくれない。そんなのを見てたら、もうどうでもいいか…って、全部を放り出したくなって…」


「喋り過ぎだぞ」と、大将が女将さんを止める。
女将さんは、「分かってる」と言いながらも、話すのを止めなかった。


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