私は、アナタ…になりたいです…。
…そう問われて、真っ先に思い浮かんだのは、河佐咲知の顔だった。
泣きだしそうな彼女の顔が思い浮かんで、その顔にどんな表情を向けたらいいか…と悩んだ。
「…今、僕の後ろにいるのは………」
カラ…と、玄関の扉が開く音がして、声が遮られた。
3人揃ってそっちを向くと、扉の所に立っていた人はビクついて、大きく目を見開いた。
ぱちっと目が合って逸らされた。
困った様に俯きながら、その客は小さな声を震わせた。
「すみません。お店の暖簾、仕舞ってあったけど、中がまだ明るい様だったから開けてしまいました。…失礼しました。…どうもごめんなさい……」
頭を下げ、扉をスライドさせた。
慌てた女将さんが止めようとするのを、大将が肩を押さえて止めた。
「…悠ちゃん、行かなくていいのかい?」
すました声で聞かれた。
女将さんは心配そうに眉尻を下げ、僕のことを見つめている。
ーー頭の中には、母の顔など浮かばなかった。
自分の後ろにいるのは、今しがたこの店の扉を開けた女性で、その人に対して、僕が今、取るべき行動はーーーーー