私は、アナタ…になりたいです…。
「気のせいだよ」…とは、言えなかった。
彼女をそんな気にさせているのは確かに僕だ。
亡くなった母の面影を彼女に重ねた。体に触れるのが恐ろしくなって、少しだけ遠ざけた。
繊細な神経の持ち主だと知りながら、彼女の気持ちを推し量ろうともしなかった。
無理して笑って見せた。
その自分のやせ我慢を、彼女はちゃんと知っていた。
ーーだから、自分から僕を避けるようになった。
傷つかずにいたい…という、彼女なりの防衛本能だった。
だけど、それをし続けるには限界があって、きっとかなり精神的に参ってたんだと思う。
…そして、とうとう口にした。その傷口に塩を塗るように、苦しい胸の内を明かした。
「私……もう自分に不似合いな恋はしたくありません。捨てられても忘れられない……そんな恋は二度と嫌です。だから、日の浅いうちに別れたい。…その方が、きっと田所さんの為にもなります!」
一切の涙も見せずに言い切った。
彼女の肩は大きく動き、まるで、マナー講座を受けている時のようだった。
本心じゃない…というのは見て取れた。
本当は別れたくて言ってるんじゃない…という気はしていた。
でも、僕には彼女を引き止めるだけの理由(ワケ)もない。
単純に彼女を好きでいる…だからこそ、裏切りたくない思いもある。
彼女に対する罪悪感みたいな感情を持ち続けている限り、この恋は上手くいったりしない。
それが分かっているから、自分も踏み込むのを止めたーー。