私は、アナタ…になりたいです…。
俯いて謝る彼女の姿が微笑ましくて仕方なかった。

僕が憧れる原因は、彼女のこんな素直なところにもある。


「僕はそんなの気にしてないよ。君にそんなことを言わせたのは自分だと思うし、出来ればそうなってしまった言い訳をしたいくらい。君が許してくれるなら…だけど…」


目の前にいる人は、顔を上げて僕を見た。
この間みたいな作り笑顔ではない彼女にほっとしながら、「いい?」と聞き重ねた。


「はい……聞かせて下さい…」


真面目な表情で応え、膝の上に掌を置いた。
幾らか緊張気味な彼女に微笑んで、僕は話し始めた。



「亡くなった母の話をした夜……咲知が母のように居なくなってしまうんじゃないかと思うと怖くなった。恐ろしくて手離したくなくて、何度も唇を奪ってしまった…」


思い出したかのように、彼女の顔が赤くなる。
熱を帯びている自分の頬を感じながら話を続けた。


「母のことを君に重ねるのは良くない…と思って、しばらく触れるのは止そうと思った。君は母じゃないと実感するまで、手は出さないと決めた。
でも、そうすると声もかけづらくて……公園に呼び出された時、本当は少し後ろめたかった。
すぐ側に君が居ると、近づきたくなって仕方ない。
歯止めが効かなくなって、手に入れた後のことを考えるのが恐ろしかった……」

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