私は、アナタ…になりたいです…。
小さな頃から頭ひとつ分飛び抜けた身長のせいで目立っていた。
中学からしていたバスケのせいもあって、不用意なくらいに背が伸びてしまった。


高校を卒業する頃になり、ようやく伸びが止まりだした。
既に180センチは軽く超していて、何処にいても直ぐに見つかる存在になってしまった。

背が高いだけなら珍しくもなかったのかもしれない。けれど、妙に女っぽい顔つきだった為に、外見上からも目立ってしまっていた。


「お前なら女形がやれそうだな」

大学時代の友人からそう言われたことがある。確か有名な歌舞伎俳優の舞台復帰公演を観に行った帰りだったと思う。


「冗談止せよ。できる訳ないだろ」


笑ってごましながら心の中では殴ってやろうか…という気持ちが高まっていた。

冗談でも、そんな事を口にされるのが嫌だった。
好んで出来上がった訳でもない自分の顔と伸び過ぎた身長について、あれこれ言われるのが一番気に入らなかった。


入社式でもそうだ。
たまたま新入社員代表として決意表明をすることになっただけなのに、周囲の人に一目置く存在になってしまった。

右も左も分からない会社での1日目、どう繕っていいか分からずにいる僕を取り囲んで女子社員たちがあれこれと聞いてくる。

「止めて下さい」も「後にして下さい」も言えるような状況ではない中で、困惑している僕を助けてくれる人は一人もいなかった。

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