私は、アナタ…になりたいです…。
それじゃーこうしよう。
翌朝も出社して来るなり、女子達が彼を囲む。

爽やか過ぎる笑顔を彼女達に向けている人は、昨日の彼と同じ人だろうか…。
付き合ってみて…と言われたのもやはり夢で、一緒に食事したのもやはり私の想像なのかもしれない…という気持ちがしてくる。


見ないでおこう…と顔を下に向けた。
待合室のテーブルを拭きながら、早く彼等が私の目の前を通り過ぎてくれることを願った。




「河佐さん」


丸っぽい声が弾むように聞こえたのは、勿論気のせいだったかもしれない。
でも、私はその声に素早く反応していた。


顔を上げると、背の高い彼が唇の端を持ち上げて私を見下ろしていた。
ドッドッと心臓は確実に速く打ち出し、彼の顔から視線すらも外せなくなっていく。


「おはよう」


唇の動きを凝視して、慌てて声を発した。


「お、おはようございますっ！」


妙に大きい声を張り上げてしまった。
自分の行為に呆れながらも、顔が自然と火照っていく。
その私に優しそうな笑顔を見せて、田所さんの唇はこう動いた。


『昨日はありがとう』


微かな息遣いに勢いよく一礼した。
勢いが余り過ぎてカツン！とテーブルの縁で額を打ってしまった私を、田所さんは驚くような顔で見つめ、『大丈夫⁉︎』と額を指差す。


「へ…平気です…」


小声で喋りながら額をさすった。
軽く痛んでいる額よりも、彼の後ろに待ち構えている女子達の視線の方が痛かった。

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