私は、アナタ…になりたいです…。
そんなふうに見られる存在じゃない。
私は、外見だけがコンプレックスじゃないから。


ダスターを握りしめて立ち上がった。
掃除を終えて給湯室へ向かう道すがらメールの受信音に気づく。

ビクリとして足が止まる。
相手が彼かどうかも分からないのに、彼だ…と思ってしまう自分が情けない。


さっき上がって行ったばかりの人に、そんなに早くメールを打てる筈がない。



筈がない……と思いながらも足が速まる。
給湯室に着いた途端、サッとスマホを取り出してロックを解除する。



……受信メールの相手は、やはり田所さんからだった。

心配顔の絵文字付きで『額、大丈夫?』と聞いてきた。


メールでの彼は、普段見せないような顔を私に向けてくれる。
特別に思われてるような錯覚に陥る自分を我慢して、普段通りに返事を送った。


『大丈夫です。ご心配いりません』


ありがとうの一つも付けずに送り返されたメールを見て、彼は何と思っただろう。
可愛げも何も無い人…と、きっと思ったに違いない。


(仕様がないじゃない。こんな捻くれた性格なんだもん…)


せめてあの事がなければ、もう少し可愛い性格でいられたかもしれない。
でも、可愛い性格でいられない理由【ワケ】があって、お陰でずっとこんな捻くれ者なんだ。



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