私は、アナタ…になりたいです…。
午前の業務をいつも通りにこなして昼休憩に入った。
行きつけの社食に向かうと、社食のレジ前で彼と彼を取り巻く女子達の群れに出会った。

ドキッ…としながらゆっくりと歩幅を狭める。
急に身を反転させて逃げ出すのも何だかおかしい気がする。


(いつものように。今まで通りにしとけばいいんだって…)


自分に言い聞かせながら、ソロソロと歩みを進める。
私の存在に一番最初に気づいたであろう彼が、こっちに視線を向けて微笑んだ。

彼のことを取り巻く女子の何人かが私の方を振り向く。
その視線と目を合わせないようにして、急いで下を向いた。


こんな時の自分が一番惨めだ。
小さな身長が災いして、周りの人達よりも一層視線を集めやすくなる。

どんな自分も嫌い。
でも、一番嫌いなのは、自信を持てない自分自身の心だ。



彼等の位置から3メートルくらい離れた所で立ち止まった。後から来た人達に「お先へどうぞ」と声をかけ退く。

社食で昼食を食べる気持ちはすっかり失せて、社外へと足を運んだ。



ほっ…と息をついたのは、近くの公園のベンチに座った時だった。
社屋の一階にあるパン屋さんでサンドイッチとコーヒーを買い、陽だまりの中に身を包んだ。

公園には秋が深まりつつあった。
名も知らぬ樹木の葉が黄色に変色しようとしている。
プラタナスの枝からは葉が数枚枯れ落ちて、落ち葉は風に巻き上げられていた。


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