私は、アナタ…になりたいです…。
「ご馳走さま」


手を合わせる私を驚くように振り返り、田所さんが聞いてきた。


「それだけしか食べないの!?」


目を丸くしている。私が少食なのを知らなかったらしい。


「はい。いつもこんななんです。私」


社食へ行っても、うどんかサラダを食べるくらいのもの。背が伸びなかったのも、幼い頃からの食生活のせいなんだ。


「よく体もつなぁ。僕なんかパン3つ食べても足りないのに」


3つ目のカレーパンを頬張りながら笑う。
食欲旺盛な人は羨ましい。心にも体にも悩みがないから食べれるんだ。


「私は田所さんみたいに食欲のある人が羨ましいです。私はどうしても食が細いから…」


コーヒーを飲みながら少し笑った。
笑ったと言っても、ごまかす程度くらいのもの。心から笑える話でもない。



「何が好きなの?」

カレーパンの袋を丸めながら田所さんが質問する。
答えに繋がる物が思いつかず、少し間が空いてしまった。


「社食ではいつもサラダかうどんを食べてるよね?あれは好きだからじゃなかったの?」


ドキッとする言葉に顔を見上げた。
聞いてきた田所さんは笑みも浮かべず、私のことを見下ろしている。


この人は私のことを本当に見てたんだ…と分かり、返って言葉に詰まった。


「サ…サラダやうどん程度なら何とか食べれるんです。だから…」


給食を残す生徒のような気分だった。
田所さんは俯く私から視線を逸らし、「成る程。そうか…」と呟いた。  



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