私は、アナタ…になりたいです…。
「じゃあさ、今度は僕の行きつけの店で食事しない?何を出されても絶対に旨い店があるんだ」

「えっ…で、でも……」


狼狽えながらどうやって断ろうかと考える。
田所さんと一緒にいると、食事どころか水さえも喉を通らない気がしてくる。

現に昨日行ったお店でも、まともに何を食べたか覚えてもいなかった。


「あそこなら絶対会社の連中に見つからない自信ある。これまでも相当通ってるけど、まだ一度も会ったことないから!」


取り巻き女子達の視線が痛いと言った私のことを気遣っての言葉だと思った。

気を使ってもらえたのは嬉しい。でも、逆に心苦しくもある。


「あの…田所さん…」


断ろうと視線を向けた。
斜め上から見下ろしてる瞳と向き合い、声が出せなくなる。
吸い込まれそうな目力を前に、何も言えなくなってしまった。


「異論が無ければ決まりでいいね。今度の金曜日に行こう!」


サッと出された小指を見やった。

自分の人差し指と同じくらいの長さがある。長いな…と思って眺めていると、田所さんは強引に私の右手を持ち上げた。


(あっ……!)


長い小指が、巻きつく様に自分の小指に絡んだ。

驚いたまま目を見開く私の向かい側で、珍しく微笑んでいない人が言った。


「約束だよ。河佐さん」


逃げ出さないように見つめている。
私の鼓動は急に速打ちになり、恥ずかしさで胸がいっぱいになった。


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