私は、アナタ…になりたいです…。
身長150センチもない私が180センチ越えの彼と並ぶと、まるで巨人と小人の様にも見える。

人から見下ろされるのには慣れている。でも、ここまで差があると、結構な威圧感を感じる。
彼はただ微笑みを湛えているだけで、少しも脅したり怖がらせたりはしていないのに。


「もう一度、最初からやり直し!」

厳しいマナー講師は、まるで私を目の敵にしたように逐一様子を見に来た。
後から聞くに、私のことを気にかけていたのではなく、向かい側に立っている田所さんを見に来ていたらしい。



(叱られ損……?)


最悪なことしか記憶にないまま入社して5年が過ぎた。


デパート関係の企業に商品を卸す会社の受付として働き始めて、もうそんなになるのか…と思う。
会社の経営や営業について私はよく知らないけれど、顧客の顔と声だけは区別がつくようになった。


(それから、この平目筋の張りにもね……)

トントン…と足裏を床に叩きつける。
長い時間立っていると嫌でも血流が悪くなるから時々こうして足を揺らしている。
これがヘンな癖になって、バス停や駅のホームでも無意識にやろうとしてしまうから怖い。
おかしな行動で注目されるんじゃなく、羨望の眼差しを向けられたいんだ。私は。

< 4 / 147 >

この作品をシェア

pagetop