私は、アナタ…になりたいです…。
私からは一切送らないメールに対して文句を言う訳でもなく、優しく包み込む様な接し方をしてくれる。
この間のように、不用意に手を触ろうともしない。

それは勿論、私がぎゅっと体を固めて小さくしているのに気づいたからで、そのさり気ない気遣いさえも私には心苦しいばかりだった。




『今夜19時、この駅の東口で待っています』

届いたメールには、駅名と駅前に飾られているモニュメントの写真が添付されていた。
そのモニュメントの前で待つ…と、彼は言ってきたんだ。


公園で一緒に食事した日、会社の連中とは絶対に会わない場所で食事しようと約束されて拒むこともできなかった。
「何を出されても絶対に旨い」と、自信たっぷりに話していた。

だから、一度だけ彼に尋ねた。


『どんな店なんですか?』


返信はすぐに入ってきた。しかも満面の笑みとウインク付きの絵文字を添えて。


『行くまで内緒。でも、面白いよ。河佐さん向きかな⁉︎ 』


『私向き』の意味も分からず、首を捻った。
ほくそ笑んでいるであろう田所さんの顔が思い浮かんで、余計なことに胸が鳴る。

近づくまい、考えまい…とすればする程、あっさりと彼の言葉一つ一つに捕らえられる。
電話で声を聞こうものなら、暫くは何もできないくらいぼぉーっとする。

田所さんが私に憧れる理由を聞いたことはまだ一度もないのに、私が彼に憧れる理由だけなら幾つも見つけてしまった。

< 40 / 147 >

この作品をシェア

pagetop