私は、アナタ…になりたいです…。
ため息混じりの話を耳にしているだけなのに、こっちの心臓は異様に動き始める。
いつも聞いてきた会話も、相手を意識するようになっただけで、こんなにも変化するものだろうか。

ドキマギするせいで、いつまでもボタンはホールに入らないし、耳はロバのようにそば立つし。
噂している女子達が早く出て行ってくれないと、呼吸もまともにできやしない。

きゃあきゃあ燥ぎながら出て行くのを目にして、ようやく大きな息を吐ける。

毎日、会社のいろんな場所であんな会話がされているのだとしたら、私が田所さんと付き合っていることもいずれバレるんじゃないだろうか。

だったら、どんな質問攻めを受けるか分からない。
中学や高校みたいに、社会人でも『イジメ』は表面化してきている。
私みたいなコンプレックスの固まりは、そんな目に遭ったら一溜まりもない。


皆が知らない今のうちなら田所さんと別れても何事もなかったように暮らしていける。

これまで通り憧れてるだけで、私は十分幸せなんだから。



ノロノロと着替えを済ませてロッカールームを出た。

社屋の地下には、発送する商品をトラックに積む為のローラーベルトが敷かれてある。

社外に出る為にはそのベルトを跨いで行かなければならない。私はそれを跨ぐのが少し苦手で、いつも人一倍神経を使っていた。


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