私は、アナタ…になりたいです…。
「私、失礼します。お疲れ様でした!」


顔が熱くならないうちに、さっさとこの場を立ち去ろう。
どうせ、この後、彼にはもう一度会うことになるのだから。


「お疲れさん!」
「お疲れ様」

二人の男性に頭を下げて走り去る。
通用口に続く短いスロープを駆け上り、社屋の前の通りに出た。


ひんやりと冷たい秋の向かい風が首元をすり抜けていく。
きゅっと肩に力を入れ、駅に向かって歩き出した。

社屋前の道路は、この時間最も車が多くて混雑している。
その脇の通りを歩いていると、近隣のビルから出てくる人達が列を作りだし、それに紛れながら駅へと進むことになる。

背の低い私は、こんな時とても惨めな気持ちになる。
周りの人達が全員大人に見えて、自分は幼い子供ような気がしてくる。

前後を歩く人の群れの隙間から見える景色は、いつも肩や頭越しで先を見通すことができない。
大きな波に呑み込まれながら、どこにも逃げれない自分の存在を虚しく感じることも多かった。


せめてあと10センチ背が高かったら、こんな気持ちにはならないんじゃないだろうか…。


田所さんに憧れたのはやはりあの身長が羨ましいと思ったからで、さっきの様なことをさらりとやってしまわれると、自分の劣等感は更に増していく。

人に優しくできる田所さんが羨ましい反面、自分には向けないで欲しい…という気持ちになる。


惨めになるのが嫌だ。
嫌いになりたくないーー。
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