私は、アナタ…になりたいです…。
自分の意に反して、生まれたばかりの僕を置いて逝ってしまった人。

その無念さはきっと誰にも分からない。

僕以上に悔しくて残念だったろうと思う。

自分が望んだにしてもこんな最後は望まなかった筈だーーー。



「……僕さえ…できなかったら……」


体についてのコンプレックスを感じるようになったのは、きっとそこからだと思う。
女将さんは僕の両腕を包むようにさすり、大事そうに力を入れ抱きしめた。


「今あなたがどんな思いでいるか、私はそれを知ることはできない。でもね、同じ女として言うなら、お母さんはあなたができて本当に嬉しかったと思うよ。あなたを自分のお腹の中で育み産み落とせて、本当に幸せだったと思う。だから、あなたは自分の存在を恨んじゃいけない。そんなことをしたらお母さんは一番悲しいよ。振り返った時に見たい顔は泣き顔かい？違うでしょ？笑い顔でしょ？」


必死で言い含める。それくらい僕は酷い落ち込みようだった。


「お母さんがいつも後ろにいて、あなたの笑顔を待ち望んでいると思いながら生きてごらん。もう泣いてなんかいられないよ。第一大したイケメンなんだから泣くなんて似合わないよ。ほらっ笑って笑って！元気出しなさい！」


横暴なくらいの勢いで僕の頭を撫で続けた。
それからポンポンと肩を叩き、「よく来てくれたね」とお礼を言った。


『かごめ』の意味をもう一つ知り、心が温もるようだった。
女将さんや大将とはそれ以来ずっと付き合いが続いている……。



……母のことも、いつしか２人に話していた。

女将さんはしんみりとその話を聞き、「無念だったろうね…」と目を潤ませた。

< 65 / 147 >
表紙・目次

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop