私は、アナタ…になりたいです…。
「いらっしゃい！」

扉を開けて暖簾をくぐると、大将の威勢のいい声が響いた。


「あら、逆戻り？」


女将さんが意外そうな顔をする。


「なんだか飲み足りない感じがして。いいですか？一杯だけ…」


言い訳しながら中へと入ると、女将さんは仕方ないわね…と呟きながら、いつも僕が座るカウンターの席の前におしぼりを置いた。


『かごめ』は立地的にかなり不利な場所にあった。
それでも商売を続けてこられたのは、この２人の人柄がとてもあったかいからだと思う。


初めて店に入った時もそうだった。
暗い表情で背中を丸めている僕を、女将さん達は何も聞かずに招き入れてくれた。



「悠ちゃん、今日連れてきた彼女は可愛かったね」


モツ煮込みをかき混ぜながら、大将は嬉しそうな声で話しかけてきた。


「女の子連れてきてくれたの初めてでビックリしちゃった！私の態度、変じゃなかった？」


ビール瓶を抱えてやって来ると、女将さんは僕にグラスを持たせて注いでくれた。


「いつも通りだったと思うけど…彼女は少し驚いたかもしれませんね。大人しめな人だから…」


ビールに口をつけ、突き出しのタコわさを味わう。
女将さんは僕の横の椅子に座り、自分も一杯頂ける？とグラスを差し出した。


「どうぞ」


注ぎながら親のように接してくれる２人に感謝の念を抱いた。

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