私は、アナタ…になりたいです…。
「…あっ、そうだ。ねぇ田所君、今度の日曜日ヒマ?街コンに参加しない?」


近藤さんは私が渋ったものだからターゲットを変えてきたらしい。
彼は一瞬目線を下げ、私のことを捉えた。黙って肩を竦めると、すぐに近藤さんに目線を戻した。

付き合い始めたばかりだから、絶対に断ってくれると信じていた。なのに、田所さんの反応は私の予想に反していた。


「街コンって、あの気になる店で何を食べてもいいって企画のやつですよね⁉︎ 僕が参加してもいいんですか⁉︎ 」


(えっ…!)


声にならない分、表情に出したつもりだった。
田所さんは私を振り向くでもなく、近藤さんに返事をしていた。


「参加してもいいのなら是非参加させて下さい!場所は何処です⁉︎ 」


楽しそうに顔を突き合わせて話し始める。
笑顔を見せたまま話を聞く田所さんの姿を見ながら、自分の心に不信感が湧いてくるのを覚えた。

背中を向け、来客用のおしぼりを補充しだした。自分は参加しないんだから、話などは聞かなくてもいい。
第一今は、調子のいい田所さんの顔を見たくない……。
不信感が強まって、ますます彼を疑ってしまう……。


黙々と仕事を進める私の背中を、ポンと叩く人がいた。
振り向くと後ろにいた人は、あっ…と息を呑む様な仕草をした。


「さっちゃん…?」


背中を叩いた人の後ろにいた近藤さんが名前を呼び、「はい…」と声を出そうとして涙が零れ落ちた。

焦って拭ったけれど、一旦溢れだした雫は止まらなくて弱った私は大急ぎで俯いた。

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