私は、アナタ…になりたいです…。
「失礼します…」

彼の前から早く逃げ出したい…と思った。
こんなふうに接近している所を誰かに見られたら、私はどんな顔をして会社に来たらいいか分からなくなる。


(知られたくない…。どうせ、すぐにフラれるのに…)


下り階段の方に体を向けた。
走って行こうとする私の左手首を握り、彼が引き止める。


「待って!まだ話が…」


田所さんの顔をどんな表情で見たのか分からないけれど、話しだそうとした彼はそれを止め、するりと手首を解いた。


「気をつけて。急ぐと転ぶよ」


真面目な顔でそう言われた。

ゆっくりと下り始めるのを確認して、安心した様に上がって行く。

離れていく足音を耳にしながら、やっぱりそういう関係にいずれはなるんだ……と思ってしまった……。



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