私は、アナタ…になりたいです…。
彼女から入った初めてのメールに僕は小躍りしたいくらいの嬉しさを感じていた。


『今夜19時、この店で会って頂けますか?』


『カワサ サチ』とカタカナ表記された文字を見て、ニヤニヤと顔が笑う。
普段あまり感情を表に出すことのない自分を気にし過ぎて、周りから何か言われやしないか…と思ってしまったくらいだった。



「おーい!田所!聞いたぞ!」


隣の部署から帰ってくるなり部長が自分の席へとやって来た。


「な、何をですか⁉︎ 」


乗りかかる様に肩に体重をかけ、ボソリと耳元で囁く。その生温かくて気持ちの悪い息は、直ぐに冷えて耳の中を湿らせた。



「お前、彼女ができたんだってな」


ギクッとする言葉に、なるべくリアクションを起こさないようにした。周りにいる小姑みたいな連中に、あまり聞かれたくないと思ったからだ。
けれど、最初の呼び声が大きかったせいで、直ぐに周りが集まってきた。


「何何⁉︎ 」

「彼女ができた⁉︎」

「やっとか!…いや、今度こそ本命だろうな⁉︎ 」

「なんとか長く続いてくれよ!お前が落ち着かないと、こっちにまでお鉢が回らねーんだから!」


各自がそれぞれ言いたいことを言い続ける。
肩に体重をかけたままでいる課長は、最後の締めのように聞いてきた。



「……で?相手は誰だ?」


好奇の眼差しが集まる。
自分の一番嫌いな対象に、冷めた眼を向けてしまった。

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